研究概要 |
サケの産卵回遊は生殖に関わる本能行動であり,その発現は視床下部―下垂体を中心とする神経内分泌系により制御されている.視床下部ニューロンが産生する神経ホルモンは,下垂体―生殖腺系を中心とする内分泌系を介して生殖腺の成熟を促進させるだけでなく,中枢ニューロンに作用し行動発現のための動機づけに関わる.視床下部ニューロンは,神経ホルモンを情報分子として,産卵回遊に関わる神経系と内分泌系の機能を同調させていると言ってもよい.そこで,この点に主眼をおいて,生殖に関わる神経ホルモン産生ニューロンの機能とその制御機構を分子レベルで明らかにすることを目指して立てた4つの小課題について,以下の結果を得た. 産卵回遊にともなう神経ホルモンおよび下垂体ホルモン遺伝子の発現変動とその調節機構(浦野): 大槌川および石狩川のサケを対象として,海から川に入り遡上しようとする時の遺伝子発現の変動を解析するための試料を採取し解析した.また同一個体から得たmRNA試料量をなるべく多くのホルモンと転写因子に定量できるようにするためにリアルタイムPCR法を導入した. 標的細胞におけるGnRHの作用機序と環状ヌクレオチド動員型受容体(安東): 標的細胞におけるGnRHの作用機序は、中枢と下垂体でそれほど異なるものではないと考えられるので,下垂体の生殖腺刺激ホルモン遺伝子の転写調節機構をモデル系として,転写調節因子SF-1とPit-1の動態を解析した.また可溶性グアニル酸シクラーゼの神経内分泌系における発現の解析も進めた. 神経ホルモンによる中枢ニューロンの活動制御の光学的解析(伊藤): 神経回路の損傷のないインビトロ脳標本からイメージングによるニューロンの活動を記録する方法を確立し,同定ペプチド産生ニューロンに特徴的な細胞内Ca^<2+>の変動パターンを見出した. 実用的なサケ属の母川系群解析法の開発(阿部): 600尾余りのシロザケのミトコンドリアD-loop領域の配列を解析し終わり,マイクロアレイを用いる系群識別法のマーカーとしての実用性を検討している.より切れ味のよい方法を用意するために,マイクロサテライトの配列も解析しつつある.
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