研究概要 |
計画の2年目として,まず昨年度の技術開発の成果を原著論文としてReview of Scientific Instruments誌に発表した。実験装置の開発においては,昨年度導入した極低温X線装置の試験を行い,4軸回折装置に相当する機能と性能をもつことを確かめた。今年度は極低温冷凍機を導入してX線装置への組み込みを行うとともに,極低温X線実験用1軸加圧セルを設計製作した。低温,1軸性加圧下でのX線実験のために,まず,常温で1軸性加圧セルの中の試料によるX線回折の実験に着手した。 有機導体の電気的性質の実験においては,まず擬2次元導体(BEDT-TTF)2XHg(SCN)4のK塩とNH4塩を対象として,1軸性加圧下での抵抗測定および磁気抵抗測定を行った。その結果,両者の常圧下の性質を統一的に理解することが可能であることを実証した。つまり,これらの物質の相違は,a軸方向とc軸方向の分子間距離のわずかな差にあり,これらの軸に沿う1軸圧縮によって,両者に同じ性質,つまり,金属性,超伝導性およびフェルミ面のネスティングを系統的に出現させることができることを発見した。この結果は,1軸性圧縮によって電子物性の制御が可能であることを実証した最初のケースといえる。擬1次元導体(TMTSF)2PF6においては,1次元軸に沿う1軸圧縮がスピン密度波相を抑制し,超伝導をもたらすことを発見した。直交する軸方向への1軸圧縮は,スピン密度波相の出現にほとんど影響を与えず,また,超伝導をもたらしもしない。この結果は従来の通説を覆すものである。 以上の発見を物理として確定するためには,来年度以後,1軸性圧縮下での構造の決定を進める必要がある。
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