研究概要 |
計画の3年目として,まず昨年度の技術開発および擬2次元導体(BEDT-TTF)_2XHg(SCN)_4のX=Kの塩とNH_4塩に関する研究成果を,国内外で合計6つの会議・研究会で報告した。実験技術の開発においては,昨年度にたちあげた極低温X線装置を用いて,まず,常温・1軸性圧縮下での有機導体のX線構造解析実験に挑戦した。その結果,十分とは言えないが,構造解析の結果を得ることができた。それに基づいて強束縛モデルのバンド計算をおこなったところ,電気抵抗測定の結果と矛盾しない結果が得られた。超伝導との関係で言えば,構造解析によって得られた電子のフェルミ準位での状態密度は7%程度増大していると見積もられる。一方,昨年度までの伝導度測定の実験でわかっていることは,同程度のひずみの下での臨界温度の上昇を状態密度だけで説明するためには,状態密度が15%程度増大すればよいことである。7%と15%という違いは,現在の見積もり精度では問題にはならず,構造解析はほぼ正しい結果を与えていると考えられる。 関連物質に対する1軸性ひずみ効果の測定もおこなった。ひとつは,上記のK塩のイオウをセレンに変えたもので,今まで,静水圧下では超伝導は見つかっていない。1軸性ひずみを加えたところ,結晶の3軸のどの方向に加えても,超伝導と考えられる抵抗の減少を発見した。今後,構造解析をおこなって,静水圧と1軸性ひずみとの違いを調べる予定である。もうひとつの物質は,θ型のBEDT-TTF導体である。この物質については,従来から信じられている相図と矛盾のない1軸ひずみ効果を発見した。この物質の構造も調べることを予定している。
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