研究概要 |
本研究の目的は,構造的柔らかさを特徴とする有機導体の,分子配向の自由度に象徴される極低温構造変化と電子状態の相互関係を,一軸性圧縮などの外部制御のもとに解明することである。その知見に立つて,豊富な多様性をもつ有機導体の物性制御と設計に取り組む。具体的には,(1)一軸性圧縮などの制御のもとでの,磁気輸送現象による電子状態の精密な解明と,(2)極低温X線回折・散乱の観測による分子配向などの構造変化の解明,およびこれらの総合によって,(3)有機導体の電子物性の設計指針を得ることである。 伝導測定による一軸性圧縮効果の研究については,アルファ相BEDT-TTF系導体のセレン置換体,シータ相BEDT-TTF系導体,およびシータ型BO系導体について測定を行った。その結果,セレン置換体を除いては,伝導面内での分子2面対角が減少すると金属的,増大すると絶縁的となり,中間のある範囲で超伝導が起こるという描像を得た。しかしながら,セレン置換体だけはどの方向に圧縮しても超伝導を示した。現在,その起因を考察中である。フラーレン超伝導体への一軸圧縮効果の研究も開始し,カリウム添加フラーレン試料の実験のために,実験に使用する材料などの条件を明らかにした。今後,測定に着手する予定である。 一軸性圧縮・極低温下における有機導体の構造を解明し,物質構造と電子構造との関係を探るため,X線回折用の一軸圧縮ベリリウムセルとダイヤモンド・アンビル型静水圧セルを用意するとともに,ベリリウム製の真空ジャケットと熱放射シールドの性能を調べた。満足すべき結果を得たので,現在,X線回折測定を開始している。
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