本研究は、総務庁『全国消費実態調査』(以下『全消』と呼ぶ)を利用して、退職前後の経済状況に関する研究と、妻の雇用状態の相違が家計に及ぼす影響の分析を行った。 まず退職前後の所得代替率を調べた。ここでは、代替率として退職前後の可処分所得比を計算すると、低所得階層と高所得階層は所得代替率が高く、第III5分位(単身者)ないし第IV5分位(夫婦)の所得代替率が低かった。次に公的年金の年間収入に対する割合(退職後)をみると、全体として60%前後であった。さらに資産所得の年間収入に占める割合を調べた(退職後)。それによると、単身者が17%、夫婦世帯が16%であった。この割合は所得が高いほど、高くなる傾向にある。資産所得の大小は退職後の生活にかなりの異質性をもたらしていると考えてよいだろう。定年後も働き続ける日本人は今のところ多い。60代後半になっても賃金を手にしている人が少なからずおり、年間収入に占める賃金の割合は単身者で20%、夫婦世帯で32%であった。 次に、妻の雇用状態の相違が、家計への妻の経済的貢献および消費支出へ及ぼす影響を分析した。特に、世帯類型、居住地域、妻年齢階層を制約条件として、夫勤労者世帯における妻の雇用状態-職種と勤務形態-と家計実態の関係を検討した。 世帯ごとの妻収入対夫収入比から妻の経済的貢献度の分布を考察すると、妻がパートタイムの場合には、妻経済貢献度が10%超20%以下に集中していた。フルタイムの職員の場合、妻経済貢献度が70%を越える世帯が約半数を占めた。夫収入と妻の雇用率の関係を5歳刻み毎の妻年齢別に検討した結果、再就職期を迎える30歳代後半から40歳代の層では他年齢層に比べ夫収入による妻雇用者率の差が大きかった。フルタイム就業はパートタイム就業に比べ夫の収入の影響をより大きく受けることが既に報告されているが、特に労務職の場合にその傾向が顕著であった。
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