実験1)昨年度の研究で、生後4〜14ケ月の健常乳児を対象に、対乳児音声と対成人音声の刺激対に対する選好聴取反応を横断的に測定した結果、3段階の選好反応の発達変化が示された。そこで、今年度は、同様の刺激対を用いて、選好聴取反応の発達変化を縦断的に測定し、昨年度の横断的測定データと比較した。 その結果、8名中7名の乳児において、対乳児音声への選好から対成人音声への選好へ逆転する時期を経て、再び対乳児音声の選好へ戻るという、U字型の発達変化が示された。この変化の時期は、昨年度に行った横断的データの変化の時期とも一致していた。このことから、乳児は、はじめ自分にとって親密な音声に注意を向けるが、母語音声の特徴の分析能力が発達するのに伴って、新奇な音声特徴に注意を向けるようになる。しかし、更に発達が進んで、音声を自分にとって意味のある言語として捉えるようになると、自分に対して向けられる、わかりやすい特徴を持つ音声に注目するようになるということが予想された。このことから、乳児の音声刺激に対する選好反応の発達変化は、言語獲得過程と関連することが示唆された。 実験2)1例のダウン症乳児に対して、選好法を適用し、種々の刺激音声対に対する選好反応を測定し、ダウン症乳児の韻律的特徴への注意の向け方を、健常乳児のデータと比較した。 その結果、ダウン症乳児では、2歳を過ぎても、選好聴取法の適用が可能なことがわかった。ダウン症児の韻律的特徴への選好反応は、健常乳児とほぼ同様の傾向を示した。
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