研究概要 |
近年の研究で,幼い子どもは,少数の原理にしたがって,効率よく語の意味を推論していると考えられるようになった。このような原理の1つに,相互排他性原理がある。この原理は,1つの事物には1つのカテゴリー名しか認めないというもので,効率よく語意が学べるよう子どもを導く一方で,その適用が制約されなければ,「犬」 「動物」のように階層関係にある語の学習を困難にする。本研究は,子どもの中で,この原理の適用が,どのようにコントロールされているのか,そのメカニズムを探ることを目的とした。 その結果,まず第一に,子どもが新しい語を語彙辞書に取り入れるさい相互排他性原理を適用するか否かは,事物間の形状類似性の影響下に或ることが明らかになった。すなわち,既に自分がある名前で呼んでいた事物に新しい名称が導入されたら,子どもは,その新しい名称と既知の名前とがどのような意味関係にあるかを決めなければならない。相互排他性原理によるなら,新たに名づけられた事物は,既知の名前の指示範囲(カテゴリー)から排除するということになる。が,子どもはいつでもそうするわけでなく,命名対象と既知カテゴリーの典型との形状類似性が高いときには,相互排他性原理を乗り越え,新しい名称と既知の名前とのあいだに階層構造を形成するのである。 もっとも,形が似ていれば機能も多く共有されることを考えると,階層構造の形成にきいているのはどちらの要因なのか,この結果だけでは決められない。そこで,両要因を分離して検討した結果,形状類似性の方が一次的な要因であるらしいことが見いだされた。以上,相互排他性原理の適用は,少なくとも子どもが3歳になるまでに,形状類似バイアスとの相互作用の中でうまくコントロールされるようになっており,これにより階層関係にある語の学習も早くからなされていることが明らかにされた。
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