研究概要 |
脂質代謝関連遺伝子(CETP,CD36,β32GPI)の変異型が日本(札幌,奄美大島,沖縄,壱岐),韓国光州,中国各地(内蒙古,北京,鄭州,蘭州,成都),ヨーロッパ(イギリス,ドイツ)でどのように分布するかを検討して以下の結果を得た.1)D442Gは中国,韓国,南日本,北日本に広く分布し,その出現の古いことが示唆された.しかし,ヨーロッパには見いだされないことから,東アジア人の成立を探る遺伝マーカーとしての有用性が示唆された.伝播経路の解明には更に中国南部,東南アジア,あるいはそれ以西の地域の調査が必要であると思われる.2)Int14Aはこれまでのところ日本でしか見いだされず,しかも沖縄や奄美大島などの南日本では見いだされていない.秋田県大曲に高頻度に出現するとの報告もあることから,比較的遅い時代に東北地方に住む日本人の先祖に発生した変異である可能性が強い.Int14Aについては大曲を中心に東北日本における分布を更に調査する必要がある.3)酸化リポ蛋白受容体であるCD36欠損症をフローサイトメトリーによりスクリーニングし,日本人における頻度を7%と決定し,更にエクソン4内のC→T置換が3.9%,エクソン10内の挿入が2.1%と高率であることを見いだした.これらはヨーロッパには見いだされず,人類学的マーカーとして有望と期待される.これまでのところ,エクソン4内の置換は韓国に日本以上の高率に見いだしているが,北京では見いだされない.このことは同変異が朝鮮半島で発生したものである可能性を示唆しており,渡来人のマーカーとして有用であると思われる.4)β32GPI遺伝子のエクソン4内の変異を日本人の7%という高率に見いだした.この変異はヨーロッパでは認められないことから,アジアにおける分布を検討することにより人類学的マーカーとしての意義を確立できると思われる.
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