東南アジアを含めたアジアの家族のパターンについては、「比較の中の日本の家族」で概観することができた。その上で南アジアの変動プロジェクトのジェンダー班などの研究会で発表をし、意見交換を進めるとともに、東アジア関係の学会でも報告をし、ジェンダーに関する基礎的な比較を行ってきた。その成果の一部は論文「中国社会のジェンダー:比較を通じて紡ぎ出す中国的特色」として公表した。南アジアのジェンダーの問題を考えていくときの一つの大きな対比は、東アジア特に中国においては、近代化のプロセスで自らの手で自らの伝統を否定し、新しい社会を建設するといった方向性を打ち出し得たのに対し、南アジアの場合は、植民地化の影響で、伝統的な家族規範が植民地権力に対する抵抗の核となってしまい、古い構造を温存させる結果となったという点であろう。カースト制度が独立以降も残存し、またそのことが、恋愛結婚を成立させないというように現在のジェンダーのあり方を考える上でも大きな影響を及ぼしていることを考えれば、こうした伝統的ジェンダーとナショナリズムのあり方というのは、非常に興味のある対比である。このほか性暴力の問題については、「性犯罪へのアプローチ」において、南アジアの問題には直接言及していないものの、他の凶悪犯罪や性規範との関係で、日本を中心とする東アジアの強姦がどういう分布をしているかを明らかにし、日本を含めて性犯罪の問題を考えていく際の基本的な視角を得ることができた。
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