本研究では、多次元のトンネル現象の新しい半古典理論を構築し、その化学反応への応用を行った。3年間にわたる本特定研究の成果はつぎの通りである。(1)トンネル座標以外の振動励起、脱励起のトンネルへの効果の解明した。(2)多次元トンネル化学反応系(時間依存のトンネル現象)で、反応確率を高めるためのエネルギー注入モードや、生成物のエネルギー分布のあり方を明らかにした。(3)多体効果としてのカオスとトンネルの関わり、等を定性的かつ定量的に解明した。(4)この一般化された古典力学解を経路積分に組み込み、トンネルを許容する半古典理論を構成し、一般的な化学反応系に応用したところ、トンネルチューブと呼ぶ多様体の存在とその重要性が明らかになった。トンネル現象を起こし易くするためのエネルギー注入のモードや、生成物におけるエネルギー分布などが、このトンネルチューブの大きさによって決定されていることが分かった。(5)トンネル確立の計算が簡便に行なえるように、準半古典法を新たに開発し提案した。これを、量子論を比較することによって、準半古典法に伴う反応速度定数の精度の高さを実証した。(6)エネルギー障壁より高いエネルギーでの化学反応において、いわゆるグイナミカルトンネルも寄与を始めて見積ることに成功した。(7)適当な厚みを持つセパラトリクスの中で量子化された波動関数の、自発的量子局在にともなって生ずるトンネル現象を発見した。これを第二種ダイナミカルトンネルと呼んだ。(8)第二種ダイナミカルトンネルに関連して、量子-古典対応に新しい問題を提起し、カオスにおけるスペクトル分布の新しいあり方の可能性について議論した。これらは、今後のトンネル化学反応や多体トンネル効果の研究の重要な基礎をなすものである。
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