高周波スパッタ法によってFe/AlN積層薄膜を100Wにて作成すると、30Wの場合と比べてα-FeおよびAlN層ともに良く結晶化していた。しかしα-Feの回折線はやや広幅化しており、既報の30Wの場合と似て積層回数が増すとともに低角度側にシフトした。この様子から100Wで成膜した積層回数が少ない膜の方が、窒素含有量が少なく大きな磁化をもつ窒化鉄の生成していることが推測された。室温で磁気測定を行うと、100および30Wで成膜した試料とも、積層回数が増えるとともにα-Fe格子中の窒素含有量が増すため飽和磁化の値は次第に減少した。また100Wで成膜した一回積層膜では233emu/gに及ぶ大きな磁化が見られた。昇温しながら積層薄膜の磁化を測定すると、590K付近にα"-Fe_<16>N_2などの巨大磁化成分がα+γ'へ熱分解する反応に由来した磁化の大きな減少を伴いつつ、γ'-Fe_4NのCurie点が観測された。800Kから温度を下げると、磁化は520K付近から急速に増加した。またAl-K端のXANESスペクトルを測定した。界面に生成する窒化鉄中に含まれる窒素含有量が多い30Wで成膜した積層膜ではAlNのスペクトルの微構造は失われ、かなり線幅の広いスペクトルになっていた。金属Alのスペクトルが線幅の広いスペクトルであり、30Wで成膜した積層膜のスペクトルはAlNと金属Alが共存しているとしてよく説明できた。これらの実験事実より、負の電子親和力をもつAlNから成膜時に遊離した窒素ガスがα-Fe格子中に拡散して、窒素濃度に傾斜構造を伴った窒化鉄からなる界面相を形成することが明らかになった。 機能複合化に関する実験では、Fe/AlN/Feトンネル接合において磁気抵抗効果を観測できた。しかし性能を評価するためには接合作製法や強磁性物質の最適化が必要である。
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