DNA塩基を修飾することによりその作用を発現する抗ガン物質が数多く知られている。これらの抗ガン物質はいずれも求電子性の高い反応部位で、DNA中の求核性の高いプリン塩基のN3位やN7位、グアニン(G)の2位アミノ基と反応する。多様なDNAと抗ガン剤の反応を統一的に理解することができれば、新規抗ガン剤の理論設計や特定DNA塩基配列を修飾する人工制限酵素の開発も夢ではない。本研究ではこのような観点からDNAと抗ガン剤の高次構造複合体形成機構を有機合成化学的に解明しようと試みている。抗腫瘍活性抗生物質カプリマイシンA_3(1)は放線菌の生産する抗腫瘍活性を有する化合物で、プルラマイシン系抗生物質に特徴的なアンスラ-γ-ピロン骨格とピロン環の2位にアルケニルエポキシド側鎖を持つ。1はエポキシド16位でDNAのメージャーグループに位置するGのN7位を速やかにアルキル化するが、その際極めて高い5'GG3'配列の5'側G選択性を示す。1がDNA中の5'GG3'配列の5'側Gに高い反応性を示す理由を明らかにし、メージャーグループ側からDNAを修飾する新規抗ガン剤設計の指針を得るために、1の各種誘導体を用いてDNAとの反応を解析した。その結果、1)1誘導体のDNAアルキル化の反応性はDNAへのインターカレーションのしやすさにより決まる、2)芳香環部分のインターカレーションによりエポキシドが開環反応(SN2)に適した配置でG-N7に接近する、3)5'GG3'配列はDNA中最もインターカレーションを受け易い配列であることを明らかにした。
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