今年度は「低分子化合物による巨大DNAの折り畳みの立体制御」の課題で研究を行い、進展があったので、そのうちの主要な業績を報告する。 本研究グループはこれまでに、DNA分子のコイル-グロビュール転移が不連続な相転移であることを、蛍光顕微鏡観察により発見した。そしてシミュレーションおよび理論的な解析から、一般に硬い高分子ではコイル-グロビュール転移が不連続な相転移となり、その凝縮体が熱平衡でドーナツ状の形態をとることが明らかとなった。今回は、コイル-グロビュール転移が連続的な転移から不連続な転移へどのように変化し、構造がそれに伴いどのように変わるのかということを解明するため、高分子の硬さを変えてマルチカノニカル法でモンテカルロシミュレーションを行った。その結果、次のことが明らかとなった。 1. 高分子鎖が柔らかい場合、温度を下げていくと高分子鎖はコイル状態から球状の凝縮体へ連続的に変化する。 2. 高分子鎖の硬さを増すと転移が連続的から不連続的へと変化するが、その境界付近(中間の硬さ)で温度を下げていくと、コイル状態からドーナツ状と棒状の凝縮体の共存状態を経て、棒状の凝縮体のみが熱力学的に安定な状態となる。 3. 高分子鎖の硬さを更に増した場合、温度を下げていくとコイル状態からドーナツ状の凝縮体のみが安定な状態となり、棒状の凝縮体は局所安定な状態となる。 このように、高分子鎖の硬さを変えるだけで多様な凝縮構造が得られることが示された。この研究によって、凝縮体の構造を制御を試みる上でDNA分子鎖の硬さというパラメータが構造を決める非常に重要な因子であることが改めて明らかとなった。
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