研究概要 |
精製水中のPAUは、低温側では沈澱するものの、約60℃付近でその透過率が増加し始め、約75℃で完全に溶解する性質を持つ。これは、精製水中のPAUが、低温下では分子間でコンプレックスを形成し脱水和状態を維持したために水に不溶化し、高温側ではその高分子間コンプレックスが解離して高分子鎖が水和状態をとり、水に溶解したものと考えられる。低温側で不溶化し高温側で溶解した傾向は、精製水中と生理条件を持ったリン酸緩衝溶液(PBS,pH7.4)中で同様であった。 さらに、このAUを含むハイドロゲルは低温下では収縮した状態を示し、15℃付近より急激に膨潤し始めて約30℃より膨潤度の上昇変化は緩やかとなった。すなわち、このハイドロゲルがPBS中においても、低温側で収縮し高温側で膨潤する温度応答性を示すことが分かった。 10℃〜30℃間に温度を変化させた場合の、このハイドロゲルの膨潤・収縮挙動を調べた。調製したハイドロゲルを乾燥デイスクとして打ち抜き、モデル薬物であるケトプロフェンの水-エタノール混合溶液に1日浸した。その後、再びゲルを乾燥させ、ケトプロフェンを含んだゲルを作製した。このゲルを、10℃で45分間、30℃で15分間交互に保温して、ゲルより溶出した水溶液の258nmにおけるUV吸収を調べ、温度変化に伴う薬物放出速度を算出した。ハイドロゲルは、精製水中とPBS中でそれぞれ10℃で収縮して30℃で膨潤し、その膨潤・収縮変化の可逆性はほとんど変わらなかった。さらに、10℃〜30℃の温度変化に対する、PBS中におけるハイドロゲルからの薬物放出は、30℃で薬物を放出し、10℃で放出が停止する、膨潤度変化に対応した薬物放出パターンを示し、新規DDS担体としての可能性が期待された。
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