プロトンATP合成酵素は、呼吸鎖電子伝達系のあるエネルギー変換膜にあり、電子伝達駆動性プロトンポンプタンパクによって作られたプロトン濃度勾配を利用してADPをリン酸化し、ATPを合成する。生体エネルギー変換の鍵を握るタンパク質のひとつである。膜の中にあるF_0部分と、外にあって水溶性のF_1部分からなる。 本研究の目的はプロトンATP合成酵素の触媒反応中のタンパクの役割をチロシン残基やトリプトファン残基の構造変化を手がかりとして明らかにすることである。そのために紫外共鳴ラマン分光法を用いる。小倉は平成10年4月に現所属に異動した。紫外の検出器が準備できていないので、可視ラマンスペクトル(非共鳴)の測定を行った。 ATP合成酵素は好熱菌PS3のものを用いた。βサブユニットの341番目のチロシンをロイシシに置換した変異体の514.5nm励起の非共鳴ラマンスペクトルを測定した。これと基質アナログであるAMP-PNPを結合させたもののラマンスペクトルを比較した。タンパク由来のラマン線の変化は小さく、AMP-PNP結合による構造変化は、はっきりとは見えない。これは非共鳴ラマン散乱のため多くのラマン線が重なっているから、と考えられる。一方、AMP-PNP由来のラマン線の中には結合型と非結合型と比べると差が認められるものがあり、現在これを詳しく調べている。 並行して紫外共鳴ラマンスペクトルの測定系の準備を進めている。
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