Paracoccus halodenitrificansのNOリダクターゼについて、4つの鉄中心の分光学的および磁気的検討を詳細に行い、高スピンヘムbと非ヘム鉄が近接していることを明らかにした。また、基質であるNOがこの複核鉄中心の両方に結合することを見いだした。さらに、分子内電子移動過程の検討および金属中心の酸化還元電位の測定から、低スピンヘムc→低スピンヘムb→高スピンヘムb-非ヘム鉄なる電子移動が行われ、NOが還元体に結合し、N_2Oへと変換されることがわかった。一方、構造遺伝子norCおよびnorBの配列を決定し、金属結合部位を特定するとともに、高次構造モデルを構築した。その結果、NOリダクターゼが末端酸化酵素の先祖酵素であるとの説が妥当なものであると思われた。分子進化による機能変換を決定づけたのは、非ヘム鉄からCuBへの変換であり、非ヘム鉄への配位グループであるグルタミン酸の非配位性アミノ酸への置換によって配位数が減少したため、基質がNOから酸素分子へと変化したものと考えられた。さらに、構造遺伝子の決定はプロトン輸送経路についても示唆した。この知見は、分子進化の過程で如何にしてチトクロムオキシダーゼがプロトンポンプ機能を持つに至ったかを示唆するものであった。さらに、今年度は大量発現系の構築を目指して種々検討してきた。チトクロムcサブユニットについては、大腸菌および酵母において、タンパクとしては大量発現できたが、ヘムの含有量が少なく、もう一段の工夫が必要である。Alcaligenes xylosoxidans GIFU 1051のNOリダクターゼについては、NorCに相当する成分を有しておらず、新種のNOリダクターゼであることがわかった。しかしながら、本酵素は極めて不安定であるので、詳細な研究には時間を要すると考えられる。
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