本研究では微小領域の表面積が大きいという特性に着目し、光による磁性制御の新しい指針を得ることを目的としている。上記の研究課題に従い、一分子レベルにおいて興味深い光磁気物性を示すことが既に見出されている、ニトロキシドラジカルと結合したシリコンフタロシアニン(SiPc-TEMPO)の結晶について、光照射下における磁気的性質を調べた。まずSQUID測定から、SiPc-TEMPO結晶は常磁性であること、光照射下の磁化は、光照射がない時に比べ、非常に大きな磁化の減少を示すこと等が明らかとなった。後者は大変興味深い新規な光照射効果である。この光照射効果をより明らかにするため、時間分解電子スピン共鳴の測定を行った。その結果、SiPc-TEMPO結晶の基底状態におけるスピン分布が、光励起により熱分布から大きくずれることが明らかになった。すなわち磁化の減少は、過剰のαスピンが生成するためであると帰属された。この光照射効果は、光励起エネルギーが結晶中を移動し、分子間相互作用が変動することで過剰のαスピンが生成するというラジカル-四重項対機構により過不足なく説明された。この現象ではスピン分布の変化のみで磁気的性質が変化しており、電子構造、化学構造の変化を伴う従来の機構と明らかに異なることから、新規な光による磁性制御原理として大変興味深い。さらにこの光照射効果は、定常測定で観測されること、結晶という集合体で観測されること等から今後の発展が大いに期待できる。
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