京都大学・新庄研究室では、ナノ技術を用いて磁気多層膜またその細線を合成し、ミクロな磁化過程を研究している。我々はこの試料の提供を受け、極低温における電気抵抗の経時変化を測定した。ヘリウム3による希釈冷凍機を用いて極低温を実現し、最低温度70mkにおいて、磁気多層膜細線の磁化反転過程の途中で磁場を固定し、この状態で、細線試料の電気抵抗の経時変化が僅かではあるが観測することができた。更に磁化反転過程を何回も反復すると、磁化反転開始の磁場の大きさが分布していることも判明した。これらは磁化反転の障壁ポテンシヤルに対して量子トンネル効果による貫通がある証拠と見做すことができる。 更に磁気多層膜細線の磁化反転過程に伴って発生する熱量を希釈冷凍機を用いた極低温で検出することができた。これは極低温の実現によって、細線試料、基板、リード線、温度計等の比熱が非常に小さくなったことに伴って、磁化反転に伴って発生する熱量測定の感度が極めて増大したために可能になったのであり、発熱機構を明らかにする上で、興味ある重要な手懸りを与えるものとなった。
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