本研究の目的は、ミュオニウム(Mu)とスピン偏極電子流との相互作用を通じて、スピンに依存する電子波散乱のミクロな観測の可能性を探ることである。そのため、Si基板に歪んだGaAsの超薄膜層を成長させた積層膜(P-GaAs/GaAs_<0.83>P_<0.17>/n-Si)のGaAs表面に円偏光レーザーを照射することにより、伝導体にスピン偏極した電子を励起し、同時にSi基板側からミュオンを照射して、MuSR実験を行った。ミュオンスピンの時間発展は、強いレーザー波長依存性を示し、Si基板の直接照射効果による緩和と光励起電子との相互作用による緩和とは実験的に見分けられることがわかった。さらに、歪んだGaAs層の共鳴波長(40Kで815nm)で右偏光と左偏光のレーザー照射によるミュオンスピン偏極率を比較したところ、初期アシンメトリの統計誤差を越えた差異が観測された。この差異は、長波長側では(860nm)では観測されなていない。この偏光方向依存性は、3重項状態のMuと平行なスピンを持つ伝導電子はPauriの排他率によりMuに近付けないので、3重項から1重項状態への遷移確率は伝導電子のスピンに依存するという期待と合致する。この結果は同時に、GaAs層で伝導帯に励起された電子の偏極が、GaAsPバッファー層を介してSi基板内に注入されたことを強く示唆し、界面におけるスピン緩和と保存および、Si中のスピン保存の機構についての問題を提議するものである。
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