研究概要 |
本研究では、最近研究が進展しているナノ磁性材料の局所のスピン状態を研究するために、(1)非磁性金属や非磁性酸化物の単結晶膜中に方位をそろえて磁性金属クラスターを埋め込み固定した新しい単結晶性のナノ材料薄膜を作製する。(2)電子線ナノプローブを局所的に当て1個の遷移金属クラスターや界面からの透過電子の電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を測定し、そのスペクトルからナノメーター領域のスピン状態を評価する世界で初めての方法を開発する。(3)GMRやスピングラス様の特異な磁性を発現するナノ材料の磁性の原因を詳しく研究することを目標にした。 平成10年度は、同時蒸着法で作製したMgO単結晶蒸着膜中の数nmサイズのMnとVクラスターの構造と磁性状態を調べた。この単結晶複合膜試料の10-15nmφの領域からの電子線エネルギー損失分光(EELS)スペクトルの粗データは信号がきわめて弱くノイズも著しい。このデータから非弾性散乱した電子の検出器である1次元のYAG-フォトダイオード検出器の特性のばらつきなどを補正し、スペクトルの重ね合わせを行った。実験では、MnのL一吸収端に注目し、spin-orbit-couplingによって分裂したMnのL3,L2のピーク比(L_3/L_2)-white-1ine ratio-によりナノメータースケールのMnクラスターのスピン状態を研究した。今回、約10nmサイズの電子線プローブをもちいて、世界で初めて局所の磁性状態を区別する新しい方法の初期的なデータを得ることができた。White-line ratioからhigh-spinstate,low-spin stateを区別した研究はすでにX線吸収分光(XAS)で1980年代から行われている。EELSを用いた研究は1990年代からはじまり、それを遷移金属の微小クラスターに適用したのは当研究者がはじめてである。これまでのXASの研究によりlow-spin state状態の化合物では、white-line ratioは1前後、Fe_2O_3などのhigh-spin stateの化合物では4.0以上が報告されている。したがってこの埋め込み微小Mnクラスターの場合もhigh-spin state近い状態になっていることがたしかめられた。
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