近年ダイヤモンドは、その化学的安定性やホウ素のドーピングによる導電性から電気化学においてHOPGやグラッシーカーボンなどのsp^2炭素材料に次ぐ新規の炭素電極材料として注目され始めてきた。これまでの研究では多結晶薄膜が用いられ、sp^2炭素、結晶粒界等の存在、面が揃っていない、等の多結晶膜の特徴がどのように電気化学特性に影響しているのか明らかにされてこなかった。ダイヤモンド電極の真の電気化学特性を明らかにするためには、白金などの貴金属電極の場合と同様、単結晶電極を用い、原子レベルで制御された表面を用いる必要がある。そこで、本研究においては、導電性単結晶薄膜の成長を試み、単結晶を用いてダイヤモンド電極が本来有する電気化学及び光電気化学特性の評価を目的としている。ダイヤモンド薄膜の成長はマイクロ波プラズマCVD法により行った。基板として人工合成単結晶ダイヤモンドの(100)面を用い、成長前に表面を(100)面に対して[110]方向に約4度傾けて再研磨したものを用いた。ヘテロエピタキシャル成長の場合は、火炎溶融法で作製したPt(111)単結晶を基板とした。ダイヤモンド基板上への成長膜は平坦な単結晶(100)面であることがわかった。基板にオフ角度をつけることにより基板上のステップ幅が基板表面に入射した炭素前駆体の拡散長より短くなり、ステップフロー成長が起こりやすくなったと考えられる。得られた薄膜の局所的な表面電気伝導性をAFMにより調べた。金コートされたカンチレバーで表面電流像を測定すると、ある閾値以上の電圧を印加すると、電気伝導性が著しく減少することが判った。これは探針走査中にサンプル表面の吸着水が電圧印加により反応し、ダイヤモンド表面が水素終端から酸素終端に変化したことが考えられ、電圧のON/OFFによって表面の構造を制御できることが示唆される。 鏡面研磨・アニール/クエンチ処理を施したPt(111)単結晶表面を基板とし、導電性ダイヤモンド薄膜の合成を行ったところ、出力5000Wの条件では、通常の多結晶薄膜が得られた。白金表面にはダイヤモンドが生成しやすいと考えられる。平滑な表面の作製のためには、成長速度を落とす必要があると考え、3500Wの出力で成膜したところ、今度は成長速度が遅すぎて、プラズマによる表面エッチングとの兼ね合いで、十分な成膜条件に達しなかったわけである。ここで興味深いことは、三角形または六角形の結晶が多く観察されており、明らかに(111)成長モードにあると考えられる微結晶の密度が高いことから条件の最適化により(111)面の作製は十分可能であろう。
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