本研究は、溶液内での分子の電子状態を研究する新しい理論的方法であるRISM-SCF法を発展させ、実験的に興味深い有機金属化合物の基本的な反応の機構の解明に適用することを目的としている。今年度は、RISM-SCF法により求められる溶媒和自由エネルギーをエンタルピー項とエントロピー項に分割する方法論の開発を試みた。また、生体内反応で重要な役割を果たすピロリン酸の加水分解熱に対する溶媒効果について研究を行った。前者では、水、DMSO、四塩化炭素溶媒中でのアセチルアセトンの構造変化について理論計算を行い、ケト-エノール互変異性体間の安定性についての溶媒効果を論じると共に、ケト体の極性溶媒中で見られる大きな構造変化の起源について解析を行った。結果、アセチルアセトンの構造変化は、水中ではエンタルピー支配、DMSO中ではエントロピー支配によって引き起こされることが分かった。また、ピロリン酸の加水分解熱にはピロリン酸とオルソリン酸の水和エネルギーが極めて重要な役割を果たすと共に、溶媒和に伴う構造変化が重要であることを明らかにした。
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