交付申請書に記した計画に従って、まず、パラジウム錯体触媒ならびに塩基存在下、芳香族ハロゲン化物と2-フェニルフェノールあるいは1-ナフトールとの炭素一水素結合の開裂を伴う炭素一炭素カップリング反応における置換基効果について検討した。その結果、いずれの基質に電子供与性あるいは吸引性置換基があっても反応が進行するが、フェノール性基質に電子吸引性置換基があると反応速度が遅くなることがわかった。これより、鍵中間体であるアリールパラジウム錯体のフェノール性基質への求電子攻撃が反応に関与していることが示唆された。一方、芳香族ハロゲン化物と種々五員環複素芳香族化合物との反応では、イミダゾールやチアゾール類では円滑に進行するが、より求電子攻撃を受けやすいインドールやベンゾチオフエン類ではむしろ反応をうけにくい傾向がみられた。これより、カップリング反応における触媒サイクルの求電子攻撃の段階だけでなく、それに続く脱プロトン化も反応の効率を支配する重要な段階であることが示唆された。他方、芳香族ハロゲン化物のカップリングパートナーの拡張を目的として検討したところ、エノール化が可能なケトン官能基がフェノール性水酸基と同様の機能を示し、一部の芳香族ケトン類がフェノール類と同様の反応をうけることがわかった。さらに、別方向からのアプローチとしての、芳香族基質とアルケンとの炭素一水素結合の開裂を伴う炭素一炭素カップリング反応では、芳香族基質上の配位性置換基として、フェノール性水酸基のほかスルホニルアミノ基やカルボキシル基が効率よく機能することを見い出した。芳香族ハロゲン化物とケトン類との反応ならびに芳香族基質とアルケンとの反応については今後さらに詳細に検討を行う予定である。
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