研究概要 |
エンジイン類は,環化反応によりベンゼンビラジカルやデヒドロトルエンビラジカルを発生し,それによりDNA切断等を行い、癌治療などに有用な構造を持つ。これらエンジイン類の生体内取り込み・環化速度などのFine Tunningを行うため,反応性の高いエンジインを設計し、ラジカル発生メカニズムの詳細検討を行った。化学反応的には、ラジカル開始剤や光などを用いず,炭素骨格+転位反応だけでラジカルを発生させる反応系を選び、トリガー機構を設計した。 具体的には、ごく緩和な酸性条件で、分子内カルボン酸の関与によりラジカル反応が開始されるトリガー機能を持つエンジイン系化合物を設計し、合成した。以前からビラジカル発生系の反応において、極性条件下の反応では発生したラジカル活性種がイオン化するという現象が知られており、DNA切断活性を低下させると言われていた。今回の研究で、イオン化を最低限度に押さえるための分子設計を行い、極性条件下でも効率的に炭素ラジカルを発生する化合物を合成することに成功した。 一方、炭素ラジカル発生物質の別のモデルとして、紫外線照射下にラジカルを発生してDNAを切断する化合物を設計して合成した。これらは、DNAと親和性の強いオリゴピロール化合物に、ハロゲン化ベンゼンを置換した、比較的シンプルな構造を持っており、合成が容易な化合物である。これらは予想通り強いDNA切断活性を示した。さらに、構造と活性の関係を詳細に検討し、将来の分子設計のために有用な多くの知見を得た。
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