研究概要 |
1. 研究では,金属カルコゲナイドという無機化学的な固体構造の中に,半金属-カルコゲン結合という有機化学的なインターエレメント結合を取り込んだ新しいタイプの物質としてクロム-ホウ素-ケイ素-セレン系の新化合物の合成と構造解析の研究を中心に行った。新化合物は,ホウ化クロムとセレンを石英ガラス製の封管中の反応によって極微量(0.1mg以下)針状晶として得られる。この針状晶はガラス壁面に密着して成長し,ケイ素は石英ガラスに由来する。セレンのかわりに硫黄を用いて同様の実験を行ったが,このような四元系化合物は得られない。本化合物は大きなトンネル構造を持ち、このトンネルの中には何らかの原子団が含まれると考えられるが、X線構造解析では強くディスオーダーした構造として観測される。このため,詳細は決定できていないが,密度の測定からも,原子量の大きな原子を含む何らかの原子団がこのトンネル中に含まれていることが示された。X線構造解析によって決定された骨格部分の組成は,CrSi_3B_<12>Se_<12>であり、正12面体型構造のB_<12>ユニットを有するきわめて特異な構造である。 2. 分子性化合物からのアプローチでは,クロムのカルコゲニドクラスター錯体において,水素をクラスターの中心にもつ化合物Cr_6S_8H(PEt_3)_6およびCr_6Se_8H(PEt_3)_6が得られた。これらの化合物は,上記の固体化合物とは異なって,クロム-水素結合を持っており,結合様式は異なるが,遷移金属-カルコゲン-軽元素が結合した系が,多様性を持つことを示すものである。また,新しいタンタルのセレニド化合物[Ta(Se_2)_2]_2・TaBr_6を構造解析した結果,この化合物は,4.5価のタンタルがSe_2ユニットで架橋されて無限鎖を形成し,これと[TaBr_6]^-イオンからなるという珍しい構造をもつことがわかった。
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