研究概要 |
準結晶にはその構造の特殊性からフェイゾンとよばれる準結晶特有の構造自由度が存在する。準結晶にフェイゾン変位の空間的なゆらぎ(フェイゾン歪)が導入された場合、準結晶と局所構造が似通った近似結晶とよばれる結晶構造が生成する。本研究ではこのようなフェイゾンを媒介として起こる準結晶-近似結晶相転移を研究対象とし、フェイゾンの性質、挙動を調べることで準結晶の安定性の起源を明らかにすることを最終的な目的とした。 本年度の研究成果は、以下の通りである。まずA1-Pd-Mn系正20面体準結晶についてフェイゾンの挙動及び性質を調べる目的で比熱の温度依存性を示差走査型熱量系を用いて測定した。測定した定圧比熱を定積比熱に変換するために、あわせてX線回折法により熱膨張の測定を行った。得られた定積比熱は700K以下では、固体の典型的なふるまいを示した。すなわち温度上昇とともにデュロン・プティの法則から予想されるように一原子あたり3k_Bに漸近した。しかしながら、700K以上では3k_Bから大きくはずれて上昇し1100Kで5k_Bに達した。比熱の上昇分へのフェイゾンの寄与を高温X線回折測定により調べた。 続いてA1-Pd-(Fe,Ru,0s)系で良質な正20面体準結晶相が生成することを明らかにした。また、これら新たに見出された系において適当な組成で液体急冷法で作製した正20面体準結晶を1273Kで数時間焼鈍することで近似結晶に相転移することを明らかにした。この相転移のカイネティックスを熱測定及び高温X線回折測定により調べた。
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