研究概要 |
不規則合金の中の原子の局所配列、いわゆる短範囲規則配列(short-range order)については、古くから研究されており、かなりの合金で明らかにされている。しかしながら、合金の構成元素の原子半径の差に由来する原子の格子点からの局所変位については、ほとんどわかっていないのが現状である。 本研究では、不規則合金中での原子の局所配列と局所変位に関するモンテカルロ・シミュレーションを行った。さらに特徴的な原子配列と原子変位を示す局所領域を選び出し、その電子状態をDV-Xα分子軌道法を用いて計算し、原子間の化学結合の性質について明らかにした。 具体的には、Cu_3Auについて、その規則・不規則変態点の直上の温度で、Cohenらによって決定された短範囲規則パラメータと変位パラメータを用いて、実空間上で、Cu原子およびAu原子の分布と局所変位を初めて再現した。それをもとにCu-Au原子間の相互作用について考察した。さらにその電子状態について、非相対論の計算だけではなく、相対論(ディラック方程式による)計算も行った。その結果、Cu-Au原子間の相互作用は非相対論のときに比べて、相対論効果により一層、強くなっていることがわかった。また相対論効果により、Au5dバンドがCu3dバンドに近づくため、Auの電子状態がCuのそれに似てくることがわかった。このため周期表のIB族のCu,Ag,Auの中で、CuはAgよりもむしろAuに似ている。その結果、Cu-Au2成分系では全率固溶体を形成するが、Cu-Ag2成分系では共晶型の状態図になっている。このような原子間の相互作用の効果が、不規則合金の局所配列と局所変位に反映されているものと考えられる。
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