セラミックス材料に新しい機能を発現させる手法について従来研究を行ってきたが、特に、100フェムト秒(10^<-13>秒)という非常に短いパルス幅をもつ超高速レーザーを用いての相転移誘起による機能発現に今回は重点を置いた。超高速レーザーは通常のレーザーが持つ、指向性、空間的、時間的コヒーレンス(位相がそろっていること)といった特徴に加えて、スペクトル幅が広いこと、電場強度が強い等の特色がある。また、エネルギー増幅システムの技術も確立されており、パルス幅100フェムト秒、パルスエネルギー1ミリジュールぐらいのパルス光は商用ベースのレーザーシステムで既に安定に得られている。このパルス光の電場強度は10ギガワットに相当しており、レンズを用いて100ミクロンぐらいまで集光すると1平方センチメートルあたり100テラワット(10^<10>V/mに相当)の電場を物質に与えることができる。 超高速パルスレーザーによる誘導ラマン過程によって生成されたフォノンは、位相が揃っているために「コヒーレントフォノン」と呼ばれる。この特徴を生かして、新しい分光法として基礎研究に応用したり、マク口な領域に構造変化や化学変化を誘起する試みが行われている。本研究においては、典型的な強誘電体であるチタン酸バリウムにおいてコヒーレントフォノン生成の実験を行った。この系では相転移点近傍で相転移に関与するフォノン(ソフトモード)を生成することによって、局所的に相転移を誘起することができた。これにより、各点各点にある向きの強誘電相(分域)を記録することが可能となり、磁気によらない、いわば「強誘電メモリ」への道が開けることになった。
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