本研究では、核生成・成長型の相分解を起こす典型例である時効析出型Al-Cu合金を用いて、変態過程における空孔濃度の消長を陽電子寿命法により直接検出し、凍結空孔の消滅過程や相分解の進行に伴う新たな空孔の形成の有無を明らかにすることを目的とした。 Al-Cu合金においては、GP(1)ゾーン→GP(2)ゾーン→中間相θ′→平衡相θのような析出過程が知られている。また、GP(1)ゾーンおよびGP(2)ゾーンはともに母格子に対して完全に整合しているが、中間相θ′部分整合であり、平衡相θは非整合である事が知られている。 本研究の結果、凍結空孔は100C以下で消滅すること、GP(1)ゾーンおよびGP(2)ゾーンの形成時に非平衡な原子空孔が形成されること、形成された原子空孔は準安定に存在すること等が明かとなった。Al-Cu合金は、母格子と析出相の間の原子半径の差が11.8%と非常に大きく、そのため相分離により生じた析出相のもたらす大きな体積歪みが、変態誘起空孔を形成したと考えられる。 本研究で、十分大きな自由エネルギーの解放と体積歪みを伴う核生成・成長型の拡散型相変態において、体積歪を緩和する一つの普遍的な機構として空孔形成があり、その結果拡散変態自身が促進される可能性があることを示した。
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