準結晶のブラッグ反射のピークプロファイルとピークシフトの観察は、準結晶の安定性やフェイゾン歪みによる準結晶ー結晶相変態の機構の研究において大変興味深い。Al-Ni-Co合金では、最近、温度と成分により、少なくとも8つの異なるタイプのD相準結晶の存在が示された。従って、Al-Ni-CoD相準結晶の異なるタイプの安定性と、それらの間の相変態を調べることは重要である。そこで、本研究は、シンクロトロン放射光SPring-8のビームラインBLO2Blによる高分解能単結晶X線回折実験から、Al_<70>Ni_<10>Co_<20>D相準結晶のブラッグ反射の位置変化とピーク形の精密な測定を行い、フェイゾン歪みに関する情報を得ることを目的とした。 実験では、波長0.6888Åを持つX線を使用し、単結晶試料の10回軸が回折平面に垂直になるよう取り付け、2種類の2回軸上のブラッグ反射のピーク形と位置を測定した。最初、L方向(準周期面内の動径方向)に沿った回折パターンの測定を行い、それから、L方向に垂直で回折面内のT1方向を測定した。各々のブラッグ反射の理想位置からの有為なシフトは観測できなかった。一方、L方向に対する半値幅はQ_⊥?線形依存性を示し、T1方向のモザイク幅デコンボリューション後の半値幅も同様なQ_⊥線形依存性を示した。X線回折では、フェイゾン歪みの効果は、2つの異なった効果に分けられるが、Al_<70>Ni_<10>Co_<20>D相準結晶では、半値幅のQ_⊥依存性から、ランダムフェイゾンが存在すること、一方、ピークの位置変化は無いので、リニアフェイゾンは混在していないことが明らかになった。
|