研究概要 |
1. 金属原子を内包した炭素クラスターについて光電子分光法を用い電子状態を解明した。対象とした炭素クラスターは、内包される原子数が1個の炭素クラスター(金属内包フラーレン、M@C_<82>M=Sc,La.Gd)、多数の金属原子もしくは金属カーバイドが内包されているカーボンナノカプセルである。 2. 金属内包フラーレンの電子状態は、金属を内包しない空のフラーレンC_<82>の電子状態と類似しており、特に高結合エネルギー領域は非常に似ていることが明かとなった。これは、フラーレン骨格を形成する炭素・炭素結合の様子は金属原子の存在の有無に左右されないことを示唆している。 3. 金属内包フラーレンのフェルミ準位付近の光電子スペクトルは、内包される金属原子の種類が異なると、微妙に異なっていることが明かとなった。この領域のスペクトルの解析から、内包されている金属がランタンやガドリニウムでは、金属原子から炭素ケージに3個の電子が移動しており、一方スカンジウムが内包された系では2個の電子しか移動していないことが判明した。 4. カーボンナノカプセルに内包された金属と炭素ケージ感の電子移動の様子を検討するために、炭素原子層をアルゴンイオン銃でエッチングし、金属の内殻の結合エネルギーを炭素原子層の厚さの関数として測定した。 5. 炭素原子層の厚さに関わらず、金属原子の内殻の結合エネルギーに化学シフトは観測されず、多量の金属原子が多量の炭素原子に取り囲まれた系では、顕著な電子移動が存在しないことが明かとなった。 6. 以上の結果から、原子数の多少が金属から炭素へに電子移動を支配している可能性があることが明かとなったので、今後はある程度金属原子数と炭素原子数を制御し、電子移動を調節することにより新しい物性を持った材料の開発に指針を得ることが出来たものと思われる。
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