黒鉛に代表されるsp2炭素は、縮合多環芳香族分子(ラメラ)が層状に積層した構造を有している。化学的に活性な官能基を持たないラメラ面に官能基を導入する反応手法として、フェロセンの配位子交換反応が適用できる可能性をこれまでに明らかにした。本研究は、配位子交換反応の進行をさらに検証すると共に、反応条件を検討して錯体生成率の向上を計った。さらに、本反応を利用した機能展開の可能性についても検討し、以下の成果を得た。 フェロセンの配位子交換反応は、三口フラスコ内にシクロヘキサンまたは炭酸プロピレン溶媒、炭素試料1g、塩化アルミニウム、金属アルミニウム粉末を種々の割合で仕込み、80℃で8〜24時間撹伴することでおこなった。 炭素試料としてカーボンブラック(CB)およびカーボンナノチューブ(CN)を用いて得た配位子交換反応生成物をXPS分析した結果、いずれもFe2p3/2ピークは、フェロセン(707.7eV)よりも高エネルギー側の708.0eVに認められた。高配向熱分解黒鉛試料の配位子交換生成物を、ダイレクトインサーションプローブを用いたGCQMSで分析した結果、シクロペンタジエニル基とFeとの質量和に対応するm/z=121に基準ピークが認められた。元素分析により配位子交換反応生成物は元の炭素試料よりもH/Cが大きく増加した。これらの結果は、いずれも、錯体の形成を支持している。反応条件を検討した結果、塩化アルミニウムの添加割合が多い程、CB配位子交換生成物の収率が増加する傾向にあった。溶媒として炭酸プロピレンを用いると、シクロヘキサン中よりも高収率で錯体が生成した。CNの配位子交換生成物をメタノール中で還元すると、チューブ内にFe金属が内包されることが明かとなった。さらに、CB配位子交換生成物の磁気特性についても知見を得た。
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