研究概要 |
本研究課題について1998年度には以下のような進展があった。 (1) Mainz大学との国際共同研究として彼等の偏極電子源装置を用いて我々の作製した2種類(GaAs/AlGaAsおよびInGaAs/AlGaAs)の超格子構造フォトカソードを2ピコ秒幅のレーザーで励起し約8ピコ秒幅の偏極電子ビームを真空中へ取り出すことができた。この偏極電子ビームの強度および偏極度プロファイルを1ピコ秒の分解能で測定することにより,2つの物理量(励起直後の最大電子偏極度とスピン緩和時間)を決めることができた。このデータを解析することにより次の2つの結論を世界で初めて実験により証明することができた。 (1) 超格子を構成する物質の選択により励起直後の最大電子偏極度が決められること。 (2) 超格子結晶内での減偏極は確認されたものの数%以下と元々の偏極度(70%〜85%)に比べて小さいことである。 (3) 最大偏極度を決める機構が重い正孔と軽い正孔間のバンド混合であることを強く示唆している。 (2) 大阪府立大学の装置を用いて同じ2種類の超格子フォトカソードを8ピコ秒幅のレーザー光で励起した後のフォトルミネッセンスの円偏光度を測定した。その結果スピン緩和時間はいずれも室温で(70〜90)ピコ秒であることが判明し,(1)の(2)から求めたスピン緩和時間と矛盾しないことがわかった。 (3) 新しい超格子構造として価電子帯のBand Offsetが大きく伝導帯のBand Offsetが小さくできるGaAs/GaAsP超格子フォトカソードの試作を行ない,偏極度≧80%,量子効率≧0.3%という有望な性能を目論み通りに得ることができた。
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