研究概要 |
半導体へ磁性を融合する試みとして、Si(001)基板上へのエビタキシャル成長が可能であり、磁性元素であるFeを含むβ-FeSi_2の磁気特性に関する研究を行った。470℃に熱したSi(001)基板にFeを蒸着するReactive Deposition Epitaxy(RDE)法で作製したβ-FeSi_2単結晶膜(200nm)の磁気輸送特性の測定から、Feスピンによるキャリアの散乱効果と考えられる、異常ホール効果や負の磁気抵抗効果が現れ、さらに、β-FeSi_2は低温で強磁性となる可能性が示された。また、アロットプロットから見積もった強磁性相転移温度は、約15Kであった。ただ、SQUID測定での残留磁化から求めた4.2KにおけるFe原子当たりの磁気モーメントは、0.05μ_Rと非常に小さいため、強磁性の性質がβ-FeSi_2の元々の物性とは考え難く、欠陥などが原因となって強磁性となっている可能性が大きい。次に、磁性不純物の添加により、磁性スピンとキャリアの相互作用が大きくなることを期待して、磁性不純物であるMnの添加を試みた。Mnの添加は、Fe蒸着時にKセルから同時に蒸着し、その添加量はFeとMnの蒸着速度の比で制御した。まず、470℃でFeとMnを同時に蒸着し、膜厚20nmのMn添加β-FeSi_2膜を成長する。その後、UHV中850℃で30分のアニールにより島状に凝集させ、これらをテンプレートとして再びFeとMnを蒸着して膜厚200nmのMn添加β-FeSi_2膜(Mn添加量:0.45%,2%,4%)を成長した。結晶性はノンドープ試料と同程度でSi(001)基板にエビタキシャル成長していた。Mnの添加量の増加にともない、β-FeSi_2のa軸の長さが減少することがX線回折より、また、吸収特性から禁制帯幅は小さくなることが分かった。輸送特性からは、ホッピング伝導が低温での伝導を支配し、局在準位によるキャリアの局在長は、Mn添加によって短くなることが分かった。今後、ホール測定を行い、キャリア密度や異常ホール効果の有無を調べる予定である。
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