肥飼料成分のゼロエミッションを目的として、畜産業で発生する家畜ふん尿を堆厩肥として農地に還元するリサイクルが考えられている。そこで本研究では、名古屋大学附属農場を対象に、家畜ふん厩肥の農耕地還元システムにおける肥飼料成分の動態を把握し、環境負荷を最少とする条件(土壌の厩肥受け入れ可能容量)から、リサイクルシステムの効果と限界を明らかにすることを目的とした。 牛ふんの堆肥化過程における窒素の揮散量を実測したところ、約50%が消失した。集約農業ではしばしば水分調整材が手に入らないので、堆肥化によって多くの窒素が失われているものと考えられる。附属農場で得られる稲ワラを牛ふんに添加し窒素消失に対する効果を調べたところ(1:1、乾物基準)、窒素消失量は1/10未満まで減少した。堆肥化における窒素のゼロエミッション化には水分調整材(炭素化合物)の添加が必用であることが示された。 放牧地・畑地における施肥窒素の流出の主要経路を調べた。脱窒による窒素の流出は、全流出窒素量の約10%から20%程度であった。表面流去水と地下浸透水では、窒素の90%以上が地下浸透水に硝酸イオンとして含まれていた。施肥窒素の主要流出経路は、硝酸イオンの溶脱であることが示された。窒素のゼロエミッション化を目指し、ビニールマルチによる硝酸イオン溶脱の低減化をライシメータを用いて調べた。マルチ区では、無マルチ区に比べ硝酸イオンの流出が減少し、全体での窒素流出量は、無マルチ区の約4分の1に減少した。 本研究では、肥飼料成分の動態解析を行い、同時に窒素のゼロエミッション化を検討した。今後は、附属農場内における窒素フローの最適化を行うとともに、その他の重金属等を含む微量元素のフローおよびエネルギー消費量の解析を行い、農畜産リサイクルにおけるゼロエミッション化の成立条件を多面的に評価する計画である。
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