研究概要 |
銅酸化物高温超伝導体単結晶を高速電子デバイスなどボルテックス・エレクトロニクス分野へ応用するうえで、La214系銅酸化物や123系銅酸化物の結晶および薄膜において正方晶系-斜方晶系強弾性相転移による双晶の発生が問題となっており、結晶中へのクラックの発生や薄膜のミスオリエンテーションをもたらしている。本研究では、銅酸化物高温超伝導体単結晶中に発生する双晶を抑制するため、元素置換により高温正方晶相に安定化させることで単分域化を行った。 NdBa_2Cu_3O_7中のBaの一部をSrで置換すると、正方晶系-斜方晶系相転移温度が低下し、30at%Sr以上の置換により液体窒素温度まで正方晶系に安定化されることを明らかにした。その結果をもとに、TSFZ法によりSr添加NdBa_2Cu_3O_7(NdBa_<2-x>Sr_xCu_3O_7;x=0.30)結晶を育成し2x2x1mm^3程度の大きさの結晶が得られた。無添加とSr添加NdBa_2Cu_3O_7育成結晶は低酸素分圧中で育成したために正方晶系であり両者とも双晶は観察されなかったが、酸素中で400℃,48時間アニールしたところ、無添加NdBa_2Cu_3O_7結晶では双晶が観察されたがSr添加NdBa_2Cu_3O_7結晶では双晶は現れないことが確認された。また、EPMAによる定量分析の結果、無添加およびSr添加NdBa_2Cu_3O_7結晶の組成は、それぞれNd_<1.10>Ba_<1.90>Cu_3O_7,Nd_<1.18>Ba_<1.54>Sr_<0.29>Cu_3O_7と決定され、両結晶ともNdの一部がBaサイトに置換していることがわかった。 無添加とSr添加NdBa_2Cu_3O_7育成結晶はともに超伝導性を示さなかったので、酸素中で400℃,48時間アニールすることによりそれぞれTc_<onset>=92Kと84Kで超伝導性を示し、Sr添加結晶の方が8K低かった。Nd_<1+y>Ba_<2-y>Cu_3O_7焼結体において過剰Nd濃度yの増加とともにT_cが急激に減少するのに比べて、両結晶とも10〜20%のNdがBaサイトに置換しているにもかかわらずT_cの減少が小さいことがわかった。
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