平成10年度は、比較的分子量の小さいRNAseやβ-ラクトグロブリン(β-Lg)をモデルタンパク質として用いて、固体表面に直接接触しているぺプチド部位の特定と相互作用の強さに関して検討を試みた。直接付着に関与するぺプチド部位を特定する方法としては、タンパク質のプロテアーゼ消化により得られるぺプチド類の付着挙動から推定する間接的な方法を用いた。タンパク濃度一定条件下では、等電点近傍のpH5近傍で最大の吸着量を示した。吸着等温線(30℃)は見掛けLangmuir型を示した。酸性領域(pH3〜4)では、イオン強度が高いほど、吸着平衡定数は大きい結果となった。β-Lgをトリプシンで処理することにより14種類のペプチドを単離した。各ペプチドの組成と配列を一次構造とアミノ酸分析により同定した。ペプチド混合溶液あるいは各ペプチド単独の溶液を用いて種々の条件下(PH、温度、イオン強度)で吸着挙動を調べた。β-Lgが高い吸着を示した酸性pH領域では酸性アミノ酸を複数個含むペプチドがステンレス粒子に対する親和性が高いことが判明した。これは、ペプチド分子中の酸性アミノ酸残基がマイナスに誘起されて、ステンレス表面のプラスの電荷と多点結合するためであることが示唆された。同様にトリプシン処理によって得られたカルポキシメチル化RNaseA由来ペプチドを単離(10種類)し、そのステンレス粒子及びラテックスに対する吸着挙動をペプチド混合溶液を用いて検討した。いずれのペプチドもステンレスに対する吸着は、殆どみられなかった。一方、ラテックスに対する吸着は疎水性アミノ酸残基が多く含むペプチドにおいて強いことから、ラテックスに対する吸着には疎水性相互作用が寄与していることが示唆されたが、ペプチドとRNaseAの吸着挙動には、β-Lgのような明確な相関関係はみられなかった。
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