研究概要 |
通常、液晶の配向制御には電場制御が用いられているが、その理由として、通常の反磁性液晶分子の磁気モーメントは反磁性磁化率(10^<-6>emu/mol)に由来するため、液晶の配向を制御するには強い磁場を必要とすることが挙げられる。比較的粘性の低い有機常磁性液晶は、もしそのドメイン構造に大きな磁気異方性をもたせることができるならば、外部磁場による液晶の配向制御が容易になると考えられる。そこで、ドメイン構造由来のこの性質が実在するか否かを検証するため、双極子モーメントと磁気モーメントをあわせもつ、キラルなニトロキシドを常磁性成分とするキラル常磁性液晶分子(ラセミ体と光学活性体)を設計し、双極子モーメントを分子長軸方向または分子長軸に対して直交方向にもつ、すなわち正または負の誘電異方性を示すことが予想される分子の合成を検討した。2,3-ジニトロ-2,3-ジメチルブタンまたは非対称vic-ジニトロ化合物を亜鉛還元によりビスヒドロキシルアミンに変換後、対応するアルデヒドと反応させて環化、ついで酸化によりアキラルおよびラセミ体の長鎖構造をもつニトロニルニトロキシドを合成した。これらについて温度可変偏光顕微鏡とDSCを用いて液晶相の有無を判定した。そのうちのあるものは、最初の加熱過程で65〜75℃の温度範囲で液晶相(偏光顕微鏡観察)を示した。しかし、冷却過程では結晶相のみ現れ、以後加熱により液晶相は見られなかった。この事実は、最初ラセミ体の2は準安定なエナンチオマーの混晶として得られ、これが加熱により安定なラセミ化合物結晶に相変化したものと考えられる。もしこれが事実であれば、このものの光学活性体は可逆的に液晶相を示す可能性を示唆するものである。
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