光合成系において一連のエネルギー収集、電化分離過程に関与する特異な形態に組織化されたクロロフィル組織体に相当する分子システムを、分子認識作用に基づく自発的な錯体形成過程によって人工系で生成させることを目的として、2重架橋ポルフィリンと酒石酸エステルの特異的4点水素結合相互作用およびポルフィリンの配位相互作用を利用して複数のポルフィリンを組織化することを試みた。これらの2種の相互作用点をもつ分子としては2つのピリジン基をもつもつ酒石酸ジアルキルエステルを新たに合成し、この分子を用いた2重架橋ポルフィリインとOEP・Rh錯体の1:2組織体の生成を蛍光スペクトルによる滴定実験から解明することを試みた。その結果、2重架橋ポルフィリン/OEP・Rh=1/2の溶液中に酒石酸ジアルキルエステルを加えてゆくと、2重架橋ポルフィリンと等モルの点で、ポルフィリンの蛍光量子収率が最小となり、その後酒石酸エステルが過剰量になるにつれて再び蛍光量子収率が回復するという、特異なbiphasic滴定曲線を得た。この滴定曲線は酒石酸ジアルキルエステルのピリジン部位にOEP・Rh錯体が定量的に配位し、更に2重架橋ポルフィリンがその酒石酸部位と1:1錯体を形成するモデルによって極めて良い精度で説明することが可能であることが数値計算解析から明らかとなった。これらの結果は、本分子システムにおいて水素結合と配位結合という2種の相互作用が互いに阻害することなく独立に作用してポルフィリンのアレイ構造を形成したことを意味し、このような非共有結合に基づく分子間相互作用の導入が、今後より複雑なポルフィリン組織体構造を構築するための分子設計手法として有効であることを示している。
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