研究概要 |
非共役開殻パイ電子系についてのより深い理解が不可欠であると考え,本研究では,アルキル鎖で隔てられた二つの三重項中心を持つパイ電子系;α,ω-(ジナイトレノフェニル)アルカン誘導体の基底スピン多重度について調べることにした。主に,鎖長n=1の系について調べた。 1. 9,9,10,10-tetramethyl-9,10-dihydroanthraceneは,二つのベンゼン環はほぼ平面状で,π軌道同士の重なりが小さく,through-space機構が働きにくいと考えられる。 2,6-dinitreno-9,9,10,10-tetramethyl-9,10-dihydroanthraceneのESRスペクトルを測定したところ,1重項が基底状態で,〓E_<S-Q>=30cal/molであることが分かった。また位置異性体である2,7-dinitrene体は,5重項基底状態であった。 この結果はシグマ軌道を通した超共役・through-bond機構によるスピン間の相互作用が支配的であることを示している。 2. di(p-nitrenophenyl)methaneでは,5重項が基底状態であることがわかった。 ところが,架橋部分にジメチル基を導入した dimethyl-di(p-nitrenophenyl)methaneでは,1重項が基底状態であることがわかった。ジメチル基を導入すると,母体とは異なる安定配座を持つことがMM3計算から示唆される。従って,配座が大きく変わったことでスピン情報伝達機構が変わり,高スピンから低スピン状態に変換されたことになる。 これらは,二つのスピン間を繋ぐ部分の配座や電子状態の変化により,基底スピン多重度を変換し得たものと理解でき,今後の発展が期待できる。
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