ブタ腎臓由来のD-アミノ酸酸化酵素(DAO)はD-アミノ酸を基質とし、酸化的脱アミノ反応によりイミノ酸を生成する反応を触媒する。酸化型と還元型DAOのどちらもその反応に際して、基質中間体とCT複合体を形成し、長波長部(500-700nm)に特徴的な幅広い吸収体を示す。今回真の反応中間体(紫色中間体)、還元型フラビンとプロリンのイミノ酸との複合体、の立体構造を2.5Å分解能で決定することができた。 イミノ酸プロリンのLUMOとフラビン環のHOMOの相互作用について調べると、イミノ酸プロリンのN原子とフラビン環のC(4)とC(4a)原子の間およびイミノ酸プロリンのCα原子とフラビン環のN(5)原子の間にオービタルの重なりが見られた。フラビン環からイミノ酸プロリン側へこれらの相互作用を通して電子の移動が起こり、それが特徴的なCT吸収帯となって現れると考えられる。イミノ酸プロリンとD-プロリンの構造を比較すると、Cα原子の周り以外には大きな違いはないので、紫色中間体の構造から酸化型DAO・基質中間体の構造を容易に予測できる。この予測構造は、以前にo-アミノ安息香酸複合体の構造を用いて作成したモデルと同一と言えるものであった。したがって紫色中間体の構造は我々提案した2つの反応機構(EPEとイオン反応機構)を支持している。 DAOの反応サイクルの中で、紫色中間体が分子状酸素により再酸化され酸化型DAOに戻る。紫色中間体とイミノ酸が遊離した還元型DAOのC(4a)の電子密度を比べると、紫色中間体の電子密度の方がより高い。このため紫色中間体の方が酸化されやすい。なぜ紫色中間体のC(4a)の電子密度が高くなるのかは明確でないが、イミノ酸のNH^+がC(4a)の上にあり、この正電荷とフラビン環の相互作用により負電荷を持つN(1)よりC(4a)に電子が移動すると考えられる。
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