本研究の目的は、星間ガスの性質(重元素量など)の違う銀河(マゼラン雲と我々の銀河系)の星形成過程を数値シミュレーションを用いて理論的に明らかにすることである。特に、星間雲の分裂過程を調べ、星形成の初期段階の物理プロセスを調べた。 星間ガスの加熱・冷却過程はガスの化学組成(重元素量など)に依存するので、銀河の進化とともに変化してきたと考えられる。したがって、星の形成過程も大きく変化してきたと期待される。しかし、これまでの研究のほとんどが、簡単のため、星間ガスの等温モデルを用いて行なわれてきた。等温モデルでは、ガスの化学進化による熱的性質の変化が考慮されない。そのため、現実に起こる分裂の長さスケールなどを直接導出することは難しい。そこで本研究では、星間ガスの力学進化・熱的進化・化学進化を考慮し、星間雲の収縮・分裂過程を総合的に調べた。特に、重元素量や星間雲周辺の環境(UV放射など)の変化が星形成に与える影響を重点的に調べた。 本年度の研究では、以下のことが明らかとなった。 重元素が含まれない原始ガス雲では、重力収縮過程に太陽質量の100倍程度の質量を持つ高密度コアに分裂しやすい。この高密度コアは、比較的大きな密度揺らぎが存在するときには、太陽質量程度の質量を持つ高密度コアに分裂する。この計算から、宇宙初期に形成された星は、大質量星であったことが予想された。 一方、我々の銀河系の星間ガス雲では、重元素の冷却が有効的に効き、分裂片の質量は、太陽質量の十分の一程度と小さくなることが分かった。この分裂片の質量は、マゼラン雲のように重元素量が太陽近傍の十分の一程度の時には、数倍大きくなった。さらに外部のUVが強い場合には、低質量のガス雲は、分裂が妨げられるが、質量の大きなガス雲は、ガス雲表面でUVが遮蔽されるので、内部の分裂には大きく影響しない。
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