シリコンに原子状水素を添加すると、その添加条件(温度や添加量など)により内部および表面にさまざまな水素誘起欠陥が導入されて、それに伴い電子状態にも変化が生じる。本研究はシリコン微結晶へ原子状水素を導入して意図的に原子構造や表面状態を制御し、それによる光学特性の変化を調べるのを目的とした。 我々は、原子状水素で被覆されたシリコン基盤を使うことで、直径10nm以下(最小3nm)で形状や構造が制御された一次元シリコン結晶(シリコンナノホイスカー)の形成に成功した。形成されたホイスカーはダイヤモンド構造を持ち、基盤に非エピタキシャルまたはエビタキシャルに<112>および<111>方向に成長した。ホイスカーからのラマン散乱測定では、バルク試料に比べて幅広で非対称なラマンスペクトルが得られた。このスペクトルの変化はサイズ効果によると解釈された。 我々は、上記のように微細構造を持つ半導体結晶の生成を通して新機能材料の創生を試み、一方でその評価のための測定装置の開発を行ってきた。すなわち当グループで独自開発された電子顕微鏡内その場可視分光測定装置で、顕微鏡観察と同時に光学測定を行っている。詳しい解析はまだ達成されていないが、その場フォトルミネセンス測定で試料からの可視発光(波長ピーク約670nm)が得られた。今後はさらに実験を進め、原子状水素が極微シリコン結晶の光学特性におよぼす効果を定量的に調べたい。
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