研究概要 |
本研究の主たる目的は,有機物と無機物の「十字路」に位置する集積型金属錯体に特有の電子物性の探求を行うと共に,次世代の課題とされる光学特性・磁性・伝導性等の相乗効果による「複合物性・多重機能」の発現を目指す点にある。本年度は以下のような主たる結果を得た。 [1] 金属錯体系分子性導体Pd(dmit)_2塩において,加圧による電子状態の多様な変化(絶縁体,金属,超伝導体等)に対する対カチオンの効果を系統的に研究し,電子構造の次元性と電子相関効果との対応を得た。 [2] 中性分子としては異常に高い伝導度(室温で数Scm^<-1>)を示す拡張π電子共役系ジチオフルバレンジチオラト錯体Ni(ptdt)_2を得た。電子状態計算の結果,最低一重項状態より低エネルギー側に三重項状態が存在し,HOMO→LUMO電子配置が支配的であることがわかった。さらに,高圧伝導度測定(72kbarまで)によって「金属」相と思われる領域を確認した。 [3] 分子性反強磁性体(BMT-TTFI_2)FeBr_4の高いNeel温度が、短い分子間接触による化学的圧力効果によることを明らかにした。また,弱強磁性体(C_1TET-TTF)FeBr_4とそのSe置換体の磁性を四副格子モデルにより解析し、交換相互作用の原子置換効果と分子間接触距離変化との対応を得た。 [4] 鉄イオンがトリアゾールによって架橋された一次元鎖の構造を持つ錯体は、室温付近に大きなヒステリシス(双安定領域)を伴ったスピンクロスオーバー挙動を示す。この系において、スピン転移温度および双安定温度領域を制御することを目的として多種多様なスルホン酸イオンを対イオンとする[Fe(NH_2-trz)_3]錯体を合成し系統的にスピンクロスオーバー転移の挙動を調べた。特に対イオンがアルカンスルホン酸イオンの場合、対イオンの炭素数とスピン転移温度、双安定温度領域との間に密接な相関関係があることを見出した。 [5] ピコリルアミン系Fe^<2+>錯休におけるスピンクロスオーバー転移に関して、光励起状態を経由した相転移現象の発生する過程で、域値的特性、ふ化時間、相分離の発生が見られることを明らかにした。この現象は、協同的項間交差という視点からも重要なものである。
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