1. 一次元SDW系の光励起状態 一次元SDW系ハロゲン架橋Ni錯体は、ノンドープの銅酸化物と同様ないわゆる電荷移動型絶縁体であるが、この種の系の電子励起状態については十分な理解がなされていないのが現状である。そこで、このNi錯体について偏光反射スペクトル、電場変調反射スペクトル、光誘起吸収スペクトルを中心に光励起状態の性質を研究した。電場変調反射スペクトルの測定によって、最低励起子の高エネルギー側に、一光子遷移禁制な励起子準位を観測した。変調信号の強度から、3次の非線型光学定数を見積もることができる。Ni-Cl錯体の3次の非線型光学定数の最大値は、10e-7を超える極めて大きな値をとることがわかった。この値は、代表的な一次元系であるポリジアセチレンやポリアセチレンのそれに比べて一桁以上大きく、この物質系が非線型光学材料としても有力であることが明らかとなった。 2. 一次元遷移金属錯体におけるCDW-SDW転移の研究 一次元ハロゲン架橋遷移金属錯体の中で、ハロゲンと金属が1:1の錯体では温度変化や圧力印加によるCDW-SDW転移は見出されていない。光誘起CDW-SDW転移をめざす観点から、この相転移を探索することは重要である。そこで、(-X-M-M-X-M-M-X-)なる構造をもつハロゲンと金属が2:1の錯体、R4[Pt2(POP)4I]について、カウンターイオンRを変化させた錯体系を作製した。光物性、磁性測定から、R=NH4ではSDWが、R=Rb.CsではCDWが基底状態となっていることがわかった。この種の系では、CDWとSDWのエネルギーが拮抗していると考えられる。現在、相転移近傍の物質をめざしてR=Li、K、Naの錯体の合成と物性測定を行っている。
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