生体中での鉄イオンの存在が、いろいろな病気、最近では神経性疾患との関連性から注目されている。このような鉄イオンの元凶は、生体クラスターであるフェリチンからの漏出であるとされているが、その実態は明らかではない。今研究では、そのような生体鉄イオンのモデル錯体の合成を目指して、いくつかのキレートの鉄錯体を用い、すでに病気の大きな原因とされている過酸化水素との反応系でのヌクレオチドとの反応を検討した。 (tfda)を配位子とする系では、過酸化水素の存在下、デオキシグアノシンの8-位の水酸化反応に非常に大きな活性を示す事が解った。一方、配位子としては少しだけ構造が違う、(eda)錯体は、(tfda)とは全く異なり、糖部位の水酸化反応に高い活性を示すことが明らかになった。これは、錯体の配位子系のわずかな違いが錯体による過酸化水素の活性化に大きな効果が及ぶことを示しており、生体中での酸素分子活性化による酸素化反応とは非常に動的なものであり、これまでのように静的な考えでは理解できないものであることを示唆している。また、DNAの主成分であるヌクレオシドの糖部位が容易に水酸化反応を受けることは、すでに明らかにされているように遺伝子病の大きな原因となりえるものであり、このような事実は今後、生体内酸素酸化、それに伴う病気を考える上で非常に重要なことと思われる。
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