研究概要 |
本研究では第6族カルコゲニド錯体を構成単位とする新規高次異核金属クラスターの合理的構築をめざした研究を行ない,以下の成果を収めた。 我々が以前、Mo_2Fe_2S_4キュバン骨格をもつCp^*_2Mo_2Fe_2S_4Cl_2(1)を無水Li_2S_2と反応させることにより、キュバン骨格3個が環状に連結した化合物[Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-S_4)_3(2)を単離した。今回1と種々のジチオラート塩(LiSCH_2CH_2SLi,LiSCH_2CH_2CH_2SLi,Li_2(1,2-bdt))の反応を行なったところ,一連のトリキュバン錯体を高収率で得た。どの場合もキュバン骨格が環化三量化することによって、各キュバン骨格内のFe-Fe結合が切断され、代わりにキュバン間に鉄-鉄結合が生成する。これらトリキュバンクラスターはcp_2Fe^+によって容易に2電子酸化され,[CP^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-S_4)_3^<2+>や[CP^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-SCH_2CH_2CH_2S)_3^<2->-などが単離された。興味深いことに,過剰のFe(CH_3CN)_6^<2+>またはPd(CH_3CN)_4^<2+>によってもトリキュバンクラスターが2電子酸化を受ける。トリキュバンクラスターは2電子酸化されても骨格構造に大きな違いは見られず,金属間結合距離もほとんど変化しない。一方,[CP^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-SCH_2CH_2CH_2S)_3(3)のTHF溶液に過剰のCuBrを加えると,キュバンクラスターのCuBr二分子が付加した籠型クラスター[(CP^*_2Mo_2Fe_2S_4)_3(μ-SCH_2CH_2CH_2S)_3(CUBr)_2](CUBr_2)(4)が得られた。一方,キュバンクラスターCp^*_2Mo_2Fe_2S_4Cl_2(1)と1,3-bdtのリチウム塩を反応させると,ジキュバンクラスター[Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4]_2(m-1,3-bdt)_2(5)が生成した。また,1と1,4-bdtのリチウム塩からは不溶性濃紫色粉末が高収率で得られた。分析データ等から{[CP^*_2Mo_2Fe_2S_4](μ-1,3-bdt)}.(6)のような一次元ポリマーであると考えている。錯体1のクロリドをエタンチオラートに置換し,さらに1,4-ベンゼンジチオールで配位子交換することによっても6が得られる。さらに,1とHOTfとの反応からキュバン骨格を持つトリフレート錯体CP^*_2Mo_2Fe_2S_4(OTf)_2(7)の合成に成功した。錯体7は超分子構築の構成単位として有用である。
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