研究概要 |
c-jun遺伝子産物の活性を制御するMAPキナーゼファミリーのSAPK/JNK系は、DNA損傷、紫外線照射、熱ショック、虚血、炎症性サイトカインなどの様々なストレス刺激によって活性化されることから、発がんやストレス応答、アポトーシスに関与する主要な細胞内情報伝達経路を構成すると考えられている。私どもはこれまでに、SAPK/JNKの活性化を直接制御するキナーゼ,SEK1(JNKK1/MKK4)の遺伝子破壊実験を行い、新規SAPK/JNK活性化因子SEK2/MKK7の単離・同定や、SAPK/JNK系がT細胞の活性化や生存維持、またマウスの個体発生における器官形成にも深く関与することを明らかにしてきた。本研究では、SAPK/JNK系の免疫応答及びマウス発生についてさらなる解析を行い、以下の知見を得た。 1.in vitroで抗CD3抗体とIL-2で末梢T細胞を活性化し、再度抗CD3抗体で刺激すると、このT細胞はアポトーシスを引き起こす。SEK1を欠損するT細胞は野生型と比べてアポトーシスの亢進が観察された。興味深いことに、抗CD3抗体で誘導される抗アポトーシス分子であるBcl-X_Lの発現がSEK1欠損T細胞では低下しており、SEK1が生存シグナルを伝達している可能性が示唆された。2.SEK1欠損T,B細胞を有するキメラマウスの解析から、ウイルスに対する個体全体の免疫系は、SEK1欠損によってほとんど影響を受けないこと、この原因としてSEK2/MKK7による相補機能が示唆された。3.ノックアウトマウスの解析から、SEK1欠損マウスは肝臓形成不全により、胎生期12.5日で致死になることが明らかになった。肝実質細胞の増殖・分化の低下とその後のアポトーシスの抗進が観察され、これが肝臓の形成不全の原因であることが示唆された。
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