本研究では胃癌細胞株OCUM-2Mの亜株として腹膜播種を来すようになった胃癌細胞株OCUM-2MD3を用いて、その過程におけるゲノム変異を検出するべく体系的な解析を行った。RDA(Representational Difference Analysis)法によるゲノムサブトラクションにより、染色体3p14、1p22-23及び16q22-23にホモ欠失領域が検出された。 染色体1p22-23に同定されたホモ欠失を来しているゲノム領域においては、染色体のへテロ接合性の消失(LOH)も高率に認められた。およそ100kbの塩基配列を決定することにより、約7kbの新規遺伝子ZAP1を単離した。ZAP1遺伝子産物は1696アミノ酸からなり、シグナル配列を有すると思われる。ほぼ全ゲノム構造を明らかにし、癌細胞DNAにおける変異を解析したところ、腎癌及び膵癌細胞株においてp(A)6の繰り返しがp(A)5と変異している例が認められるなど、ミスマッチ修復異常の標的遺伝子となっている可能性もある他、スプライシングの異常が高頻度に観察され、ZAP1遺伝子の変異が2Mから2MD3への悪性化に関与している可能性が示唆された。また、ZAP1とホモロジーを有するZAP2遺伝子が9qに見いだされ、両者はともに細胞外基質を形成するタンパク分子であると推定されることから、その不活化がアポトーシス誘導を回避する機構に関与することも考えられる。 同様の解析で染色体16q22-23領域における重複するホモ欠失変異を5つの癌細胞株で同定できた。同領域に細胞増殖を抑制するシグナル分子の存在が考えられ、現在、同領域のグノムシークエンスおよびエクソントラッピングやcDNAセレクションによる転写産物の同定を急いでいる。
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