遺伝性乳癌の約60%がBRCA1、またはBRCA2遺伝子の変異により発生すると推測されており、この結果は遺伝性乳癌の発症前診断を確立するためには第3原因遺伝子の同定が必要であることを示唆している。BRCA1、BRCA2の関連遺伝子の中に第3の原因遺伝子が存在する可能性を考え、BRCA2に注目し酵母のTwo-hybrid法によりこの遺伝子産物に特異的に結合する標的蛋白の検出を試み、さらに単離されたBRCA2結合分子については遺伝性乳癌の原因遺伝子である可能性を検討した。すでにBRCA2との結合を報告したRAD51遺伝子は、組織別発現パターンがBRCA2と極めて類似していることなどから遺伝性乳癌の原因遺伝子である可能性が強く、乳癌家系における胚細胞遺伝子変異のスクリーニングを行った。その結果、2例の同時性両側性乳癌患者にコドン150のアミノ酸置換を同定し、一般乳癌、大腸癌300例の解析でこの変化が認められなかったことより発癌の原因となる遺伝子変異と考えられた。また、C端領域(コドン3119-3418)に結合する候補として乳癌発生に関与するAmphiphysinおよびBIN1と高度の相同性を認める分子が単離されBRAP1とした。ゲノム構造を決定し乳癌組織、および乳癌家系においてそれぞれ体細胞変異、胚細胞変異の解析を行い変異は同定されなかったが、各種ヒト癌細胞株における発現を検討した結果、乳癌細胞株、膵臓癌細胞株において高頻度にその低下が認められ、これら臓器の発癌機構に関わる遺伝子として解析を進めている。RAD51遺伝子が一部の両側性乳癌の原因遺伝子である可能性を示したが、遺伝性乳癌の約40%はまだ原因遺伝子不明であり、さらに重要な責任遺伝子の単離が必要と考えている。
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